「短歌の夜明けらしきもの」を読んで「届け方」について考えた
2回ほど短歌についてまじめに考える記事が続きましたが、今回は趣向をかえてゆるゆると人の短歌を鑑賞していきます!
今回ご紹介するのは「短歌の夜明けらしきもの」です。
■「短歌の夜明けらしきもの」とは?
「短歌の夜明けらしきもの」は、何らかの歌詠みたちがエキチカヘブンで朗読した内容をまとめた冊子です。
「何らかの歌詠みたち」というのは、岡野大嗣さん、木下龍也さん、飯田和馬さん、飯田彩乃さんの4人のユニット名。
結社や同人やサークルとは異なる、一時的で流動的なプロジェクト型のユニットのようです。
今回はエキチカヘブンという、演劇あり、音楽あり、漫才ありという文化系お祭りイベントに参加するために、岡野大嗣さんの呼びかけで集まったのが上述の4名だそうです。
そしてそのイベントでの朗読内容をまとめたのが「短歌の夜明けらしきもの」というわけですね。
発足の経緯やイベントの詳しい様子は岡野大嗣さんのブログに詳しいのでぜひそちらをご覧ください。
入手方法ですが、PDF版と紙版があり、どちらも岡野大嗣さんへリクエストをする必要があります。
紙版のほうは印刷・製本の手間とコストがあるため、確実に手に入る保証はないと思いますのであらかじめご認識あれ。
■内容紹介
では実際に中身を紹介していきます!
一番の特徴は短歌と写真を組みあわせているところですねー。レイアウト的には1ページにつき短歌一首と写真一枚の組み合わせ。
紙面イメージをちら見せするとこんな感じ。
写真もいいし、レイアウトも見やすいし、短歌も引き立っています。「読者に見せる」という強い意識がなければこうはいかないはず。
まずこの点に感銘を受けました!
また、肝心の短歌もレベルが高くて読みごたえがあります。
僕が気に入った短歌どーん。
『研修生( いつも笑顔で接客を心がけます) 矢野』の舌打ち』(岡野大嗣)
ショッカーの時給を知ったライダーが力を抜いて繰り出すキック(木下龍也)
即答の「コーヒー。アイス。」迷わないふりするうちに迷えなくなる(飯田和馬)
お別れの気配がします私ではなくて後ろのガラスを見ている(飯田彩乃)
いい短歌は他にもありますし、冒頭の木下龍也さんの詩や岡野大嗣さんの後書きも良かったです。
現状、PDF版もリクエストベースで無償配布しているようなんですが、十分にお金を取れるクオリティだと思いました!
お金を取るかどうかはともかく、ぜひもっと積極的にプロモーションして欲しいところです。
■「短歌の夜明けらしきもの」の意義
今回この冊子を紹介した理由として、内容がすばらしいということもあるのですが、「短歌の見せ方」とか「活動のしかた」とか、そのあたりに感銘を受けた、という面が大きいです。
たとえばこのあたりは、短歌本をつくろうとしている人たちは参考になるのではないでしょうか。
1.「見せる」という意識の高さ
写真と短歌の組み合わせ自体は結構昔からあると思いますが、商業出版ではないお手製本で手に取りたくなるようなクオリティに達しているものはあまり見たことがありません。
もちろんセンスとかイメージを実現できる人材の問題とかはありますが、一番大事なのは「手に取りたくるようなものをつくる」という意識だと思います。
この点がまずすばらしいですね!
悲しいことにほとんどの受け手は無関心で冷酷なので、「内容が良ければ届く」という理想論は通じないんですよね・・・・・・。
だから見た目や届け方には、作品づくりと同じくらい心をくだく必要があるわけです。
2.朗読イベント発の展開
またエキチカヘブンという他ジャンルが参加するイベントが契機になっているのも見逃せません。
短歌はマイナージャンルなので、ついつい狭いコミュニティに閉じてしまいがちですけど、
作風によっては短歌の人たちより他ジャンルの人たちのほうが良き理解者/読者になってくれる、なんてことはふつうにあると思います。
自分たちの可能性や読者を広げるという意味でも、いろいろな場に飛び込んでいくという活動には大きな価値があります!
3.少数精鋭かつ流動的なチーム編成
同人誌とかサークルでもそうですけど、メンバーというのは固定化しがちですよね。
それ自体は良い面も悪い面もあるわけですが、プロジェクト型のチーム/ユニットがあってもいいのに、と常々考えてきました。
しかも短歌というのは、簡単につくれるようでいて、読むに値する作品というのはどんな歌人であれ短期間に量産できないわけです。
それを考えても、ひとりで作品をつくりあげるのではなくて、クオリティの高い複数で作品をつくりあげる合同歌集のような形態は合理的。
すでにそのような試みを行っている事例はたくさんあると思いますが、今後さらに増えていく気がします!
■最後に
短歌の世界における不満というか個人的な関心事に、「どうやってマーケットを広げるか」というものがあります。
それは決してマネタイズが主眼ではなく(それも重要ですよ!)、「本来必要としている人に届ける可能性を高める」ことが最大の目的です。
そしてそれを実現するために作り手個人のレベルでできることはいい短歌をつくることだけでなく、パッケージの仕方やプロモーションの仕方など、もっともっとたくさんあると思っています。
勝手な印象ではありますが、岡野大嗣さんはそういうことができる人だし、実際にそうしているし、今後ますますおもしろい活動をしてくれる人だと思っているので、引き続き注目していきたいです。
ではでは。
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